
歴代大統領さえも魅了したスパイ小説の
映画化への歩み
ヴィンス・フリンが1999年にスタートさせたスパイ小説“ミッチ・ラップ”シリーズは、その内容の正確性に驚いた実在の諜報機関のメンバーたちからお墨付きをもらい、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュといった歴代大統領や外国の国家元首に至るまで、あらゆる読者の心を掴んだ。全13巻が出版されたこのシリーズは、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに掲載され、1250万部以上の全米売上げを記録。フリンは2013年にガンのため46歳の若さで亡くなった(が)、シリーズを存続させるためにカイル・ミルズが後を継いでいる。
フリンが死去する前に映画化の契約を結んでいたプロデューサー、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラとニック・ウェクスラーは、数あるシリーズの中から2010年の小説「アメリカン・アサシン」を原作に選んだ。これはベテランのCIA工作員である主人公ミッチの起源に迫った物語であり、心に傷を負った孤独な青年がどのようにして、テロリストにとって悪夢のような存在になっていったのかが描かれている。
製作陣は実際の映画化にあたって、TVシリーズ「ジ・アメリカンズ」で知られるスティーヴン・シフを始めとする優れた脚本家チームを起用した。小刻みに変わる世界情勢の最も重要な瞬間を捉えたフリンの作風を反映させるため、ミッチの過去を現代へと移し替えることを決断した。さらに悪役についても、世界中で起こっているテロがどんなものかを反映する“ゴースト”という新しいキャラクターに置き換えている。
そして製作陣は、張りつめたサスペンスを失うことなくドラマ作りにも熟練した監督を探し、TVシリーズ「HOMELAND」のマイケル・クエスタに行き着いた。クエスタ監督は世界的な規模のストーリーであると同時に、個人を駆り立てる恐怖とその結果を掘り下げるために既成概念をことごとく取り払った物語に引きつけられた。その物語の勢いにも魅力を感じたクエスタは、コミックやファンタジーの要素をことごとく排除し、リアルで理屈抜きの躍動感を実現したいと考えた。「世界を股に掛けたスパイの活動と心理的な動き、それがリアルに描かれた物語を気に入った。私はフリンが小説で実践したように、最も強烈なアクション・シーンであっても物語をスタイリッシュにしすぎず、現実に根ざした描き方をしようと思ったんだ」

新たなヒーロー像を体現した
ディラン・オブライエン
ヴィンス・フリンが1999年にスタートさせたスパイ小説“ミッチ・ラップ”シリーズは、その内容の正確性に驚いた実在の諜報機関のメンバーたちからお墨付きをもらい、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュといった歴代大統領や外国の国家元首に至るまで、あらゆる読者の心を掴んだ。全13巻が出版されたこのシリーズは、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに掲載され、1250万部以上の全米売上げを記録。フリンは2013年にガンのため46歳の若さで亡くなった(が)、シリーズを存続させるためにカイル・ミルズが後を継いでいる。
フリンが死去する前に映画化の契約を結んでいたプロデューサー、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラとニック・ウェクスラーは、数あるシリーズの中から2010年の小説「アメリカン・アサシン」を原作に選んだ。これはベテランのCIA工作員である主人公ミッチの起源に迫った物語であり、心に傷を負った孤独な青年がどのようにして、テロリストにとって悪夢のような存在になっていったのかが描かれている。
製作陣は実際の映画化にあたって、TVシリーズ「ジ・アメリカンズ」で知られるスティーヴン・シフを始めとする優れた脚本家チームを起用した。小刻みに変わる世界情勢の最も重要な瞬間を捉えたフリンの作風を反映させるため、ミッチの過去を現代へと移し替えることを決断した。さらに悪役についても、世界中で起こっているテロがどんなものかを反映する“ゴースト”という新しいキャラクターに置き換えている。
そして製作陣は、張りつめたサスペンスを失うことなくドラマ作りにも熟練した監督を探し、TVシリーズ「HOMELAND」のマイケル・クエスタに行き着いた。クエスタ監督は世界的な規模のストーリーであると同時に、個人を駆り立てる恐怖とその結果を掘り下げるために既成概念をことごとく取り払った物語に引きつけられた。その物語の勢いにも魅力を感じたクエスタは、コミックやファンタジーの要素をことごとく排除し、リアルで理屈抜きの躍動感を実現したいと考えた。「世界を股に掛けたスパイの活動と心理的な動き、それがリアルに描かれた物語を気に入った。私はフリンが小説で実践したように、最も強烈なアクション・シーンであっても物語をスタイリッシュにしすぎず、現実に根ざした描き方をしようと思ったんだ」
俳優たちをスゴ腕のスパイに変貌させた
ブートキャンプ
ディラン・オブライエン、マイケル・キートン、そしてゴースト役のテイラー・キッチュらの主要キャストは、撮影前の準備段階において数ヵ月に及ぶ集中訓練に身を投じた。彼らは格闘技から諜報活動の専門用語、高速運転の仕方まで、あらゆる肉体的かつ精神的なディテールについて、元軍人や元諜報員のグループと緊密に作業した。
オブライエンはハリウッド随一のファイト・トレーナーでありアクション・コーディネーターでもあるロジャー・ユアンと、一対一の作業に取り組んだ。ユアンはジャッキー・チェン、チョウ・ユンファのような有名アクション・スターと共演し、『007 スカイフォール』でダニエル・クレイグを鍛えた人物である。トレーニングの目的は、混合格闘技スタイルの組み技から、武術の飛び技や素手であらゆる種類の武器を扱うことまで、オブライエンの準備を整えることだった。
ユアンの訓練は、軍隊と諜報機関の顧問として参加したジュースト・ヤンセンによってさらに深いものとなった。ヤンセンは本作の戦術と武器訓練を統括した。ヤンセンはオブライエンについてこう語る。「ディランは素晴らしいアスリートで、特に抜きん出ているのは学び取る速さだ。ディランに一度か二度何かを見せると、彼はそれ以上の練習をせずに何度も繰り返して行うことができる。稀有な才能だね」
一方、スタントコーディネーターのバスター・リーヴスは多くのバトル・シーンの振付を手がけ、ユアンとともにオブライエンの訓練に加わった。リーヴスは元空手チャンピオンで、今は引っ張りだこのスタントパフォーマー、トレーナー、振付師であり、本作のキャストを自らのブートキャンプで鍛え上げた。「まず健康体操とヨガ、ウェイト・トレーニングと武術を組み合わせた重要な訓練から始めた。そして毎日2時間、彼ら全員をジムに集め、柔術、ボクシング、キックボクシング、リフティング、武器訓練を行ったんだ」とリーヴスは説明する。

壮大なスケールとリアリティを
追求した撮影の舞台裏
「“ミッチ・ラップ”シリーズでとても大切なことのひとつは、孤立する国はどこにもないということ。テロの脅威は地球規模で広がっている。そうした世界の現状を反映させるには、多国籍なロケーションが必要だと考えた」。そう語る製作のロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは、最高のクリエイティブ・チームを集め、アメリカ、イギリス、イタリア、マルタ島、タイでの撮影を敢行した。
美術を担当したアンドリュー・ロウズは“永遠の都”ローマの素晴らしい環境を使えるチャンスに胸を躍らせた。しかし彼は絵葉書のようなイメージのロケ地ではなく、よりアンダーグラウンド的なローマを探し求めた。「ローマは本作にとって、まさにキャラクターのひとりだ」とロウズは指摘する。「でもその美しさ同様、人々が普段目にすることのないローマを使いたいと思った。そこで私たちはコルヴィアーレの団地を使い、クライマックスのいくつかのシーンを撮影した」。1970年代、ローマ郊外に建てられたコルヴィアーレは、ヨーロッパで最も長く巨大な長方形の集合住宅だ。また、ロウズはスタン・ハーレーの秘密キャンプの施設のために、イギリス・ギルフォードの森で見つけたロッジを使用した。
さらにロウズが直面した最も珍しい仕事は、持ち運び可能な核爆弾の正確なレプリカを作ることだった。正しく作成するため、ロウズは原子物理学者とともに作業した。ロウズが説明する。「現代の核爆弾がどれほど小さくて軽いのか、その恐ろしい現実にスポットライトを当てる必要があった。そして私たちは、その爆弾の構成部品がどこから来ているのかという点から、爆弾を軽くするために炭素繊維を用いていることまで、あらゆることを検証していった」
70キロの持ち運び可能な核爆弾は、長崎に落とされた爆弾の30倍の威力を秘めている。それが米軍艦隊のすぐそばで爆発するという想像もつかない状況を映像化することに挑んだ視覚効果スーパーバイザーのポール・ノリスは、次のように語る。「私たちは多くのことを考慮する必要があった。爆弾によって作られる真空状態、かく乱、衝撃波。ステージのセットに作った航空母艦でコンピュータのためのブルースクリーンを使い、あらゆるアクション・シーンを撮影した。そうすれば外で起こっている凄まじいヴィジュアルを、後から付け加えることができるから。それから海の中の巨大な火の玉や水の穴を用いた、水中の映像も作った。それはクレーターと渦を混ぜ合わせたような映像なんだ」
こうした壮大かつ困難なヴィジュアル創造に取り組んだマイケル・クエスタ監督は、そのプロセスを楽しんだ。「これらの巨大で複雑なアクション映画を計画し、それがスクリーン上で完全に実現されていくのを見るのは、とてもエキサイティングな経験だった。スケールの大きさはもちろんのこと、本当にリアルなこの映画を通して、観客もミッチと一緒にいるような感覚に浸れると思う」