INTRODUCTION

テロリストへの復讐に燃え、CIAにスカウトされた青年
その想像を絶する運命を壮大なスケールで描くスパイ・アクション

南欧でのバカンス旅行中に無差別テロ事件に遭い、永遠の愛を誓ったばかりの恋人を殺されたアメリカ人青年ミッチ・ラップ。凄まじい怒りと悲しみに駆られ、テロリストへの復讐に人生を捧げることを決意した彼は、その潜在能力を高く評価したCIAの対テロ極秘スパイ・チームにスカウトされる。元ネイビー・シールズの鬼教官ハーリーのもとでハードな特訓を積んだミッチは、ロシアから流出したプルトニウムで核兵器製造をもくろむテロリストの陰謀を阻むため、ヨーロッパでのミッションに身を投じていく。しかし正体不明で神出鬼没のテロリスト“ゴースト”に翻弄されたミッチは、恐るべき核テロのカウントダウンが刻まれるなか、自らの真価を試される最大の試練に直面するのだった……。

累計売上げ2500万部を誇るヴィンス・フリンの全米ベストセラー小説“ミッチ・ラップ”シリーズを初めて映画化した『アメリカン・アサシン』は、世界最大の諜報機関CIAにスカウトされた若き主人公ミッチのファースト・ミッションを描くサスペンス・アクション大作だ。最愛の女性との幸福な未来を打ち砕かれたごく普通の青年が、テロリストへの復讐心に取りつかれ、核テロの脅威に立ち向かっていく激動の運命を描出。イスタンブールやローマなどのヨーロッパ各国の大都市を舞台に、複雑な国際情勢や諜報活動の内幕をリアルに見せる映像世界は、壮大なスケールのストーリー展開と相まって圧倒的なスリルを呼び起こす。トム・クランシー原作の“ジャック・ライアン”シリーズ、ロバート・ラドラム原作の“ジェイソン・ボーン”シリーズの系譜を受け継ぐ、新たなスパイ・アクションの快作がここに誕生した。

ディラン・オブライエン、マイケル・キートンが火花を散らす
無鉄砲な新人スパイ×鬼のような指導官のバディムービー

主人公ミッチの目的は、あくまでCIAの巨大な組織力を利用してテロリスト抹殺という“私怨”を晴らすこと。一方、核テロ阻止を最優先するCIAにとって、ミッチは使い捨てのコマにすぎない。そんな両者の思惑が緊迫感たっぷりに錯綜するドラマを牽引するのは、世代の異なるふたりの主演スターだ。『メイズ・ランナー』シリーズの主役に抜擢され、一躍ハリウッドの若手有望株として脚光を浴びたディラン・オブライエン。そして『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、『スポットライト 世紀のスクープ』『スパイダーマン:ホームカミング』も記憶に新しいマイケル・キートンである。

オブライエン扮するミッチはスパイとしての資質は抜群だが、経験が浅いうえに無鉄砲な性格で感情の振れ幅も大きい。キートン演じるハーリーは海千山千のチーム・リーダーで、私情こそが任務の妨げになるという鉄のようなポリシーの持ち主だ。いわば復讐に燃える“炎の男”と、冷徹にして厳格な“氷の男”。この何もかも対照的なふたりのキャラクターが命がけのミッションの中で成長と変化を遂げ、いつしか師弟の絆で結ばれていく物語には、熱い興奮を誘うバディムービーの魅力も息づいている。スパイにふさわしいディテールを体得するために、ブートキャンプで役作りを行ったオブライエンとキートンの熱演からも目が離せない。

世界中の多くの愛読者が待ち望んでいた“ミッチ・ラップ”シリーズの映画化に挑んだ監督は、TVシリーズ「HOMELAND」の演出を手がけたマイケル・クエスタ。さらに『ラスト サムライ』『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』の名匠エドワード・ズウィック、「ジ・アメリカンズ」のスティーヴン・シフらが脚本チームに名を連ね、現代的なリアリティとスペクタクルがほとばしる本作の骨格を支えている。

STORY

スペインのイビサ島でバカンスを満喫中のアメリカ人青年ミッチ・ラップ(ディラン・オブライエン)は、今まさに人生の最も輝かしい瞬間を迎えていた。「君を誰よりも愛している。結婚してくれ」。陽光まばゆいビーチでそう告げて指輪を差し出すと、恋人のカトリーナは感激の面持ちで彼のプロポーズを受け入れた。ところがミッチが飲み物を買うためにその場を離れた直後、複数の武装テロリストが浜辺に乱入し、大勢の観光客への無差別乱射を開始。阿鼻叫喚のパニックのさなか、ミッチは必死にカトリーナのもとへ走るが、非情な凶弾を浴びた彼女はミッチの目の前で絶命した。

18ヵ月後。最愛の女性との未来をテロリストに奪われたミッチは復讐に燃え、イスラム過激派組織へのコンタクトを試みていた。すべてをなげうってアラビア語を習得し、格闘技や銃撃の鍛錬に没頭してきた彼の望みは、イビサ島のテロの首謀者アル・マンスールを自らの手で葬ること。長い月日を費やして敵を欺いたミッチは、テロリスト志願者を装ってリビアのトリポリにある組織のアジトに潜入する。そして憎きマンスールとの対面を果たすが、突然アジトを襲撃した米軍がテロリスト全員を射殺。ミッチのあらゆる行動はCIAに監視されていたのだ。

テロ対策担当の女性幹部ケネディ(サナ・レイサン)は、CIAの情報網でも捕捉できなかったマンスールの居場所を突き止めたミッチに類い希なスパイの資質を見出し、彼を極秘ミッション遂行チーム“オライオン”に加えようとする。テロリストへの私怨を晴らすためにオファーを受け入れたミッチは、バージニア州の人里離れた山奥の施設へ。そこでは元ネイビー・シールズの鬼教官スタン・ハーリー(マイケル・キートン)の指導のもと、CIA工作員の養成プログラムが行われていた。過酷なトレーニング・キャンプに身を投じたミッチは、対テロ戦のさまざまなシチュエーションを想定した特訓をこなし、並外れた潜在力を開花させていく。

折しも、ロシアの核施設から大量のプルトニウムが盗まれる大事件が発生。テロリストがそれを核兵器に転用する最悪の事態を懸念したケネディは、ハーリーのチームに出動を要請する。ミッチを同行させるよう命じられたハーリーは、彼のスパイとしての力量を認めつつも不安定な精神面を問題視し、「何があろうと個人的な感情は捨てろ」と厳しく言い聞かせるのだった。

トルコのイスタンブールで現地協力員の若い女性アニカ(シヴァ・ネガー)と合流したチームは、プルトニウムを入手した謎の白人テロリスト“ゴースト”(テイラー・キッチュ)と、核の起爆装置を売りさばこうとする武器商人の取引を阻止しようとするが、それを鋭く察知したゴーストを取り逃がしてしまう。続いてローマに飛んだチームはゴーストに雇われた物理学者を尾行するが、またしてもゴーストに作戦を見破られ、ミッチは危ういところをハーリーに救われる。実は神出鬼没のゴーストの正体はハーリーの元教え子で、かつて自分を見捨てたハーリーとアメリカ政府に対して尋常ならざる怨念を抱いていた。

やがてハーリーがゴーストに拉致される非常事態が勃発し、ケネディから帰国するよう言い渡されたミッチは、その命令を無視して猛然とハーリーの救出に向かう。しかしその頃、ついに核兵器を完成させたゴーストは、ミッチとハーリーを嘲笑うようにして恐るべきテロ計画を実行しようとしていた……。

CAST

DYLAN O’BRIEN

ディラン・オブライエン

ミッチ・ラップ役

1991年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。TVシリーズ「ティーン・ウルフ」(11-17)で俳優デビュー。主役の親友スタイルズを演じて人気者となる。『High Road(原題)』(11・未/マット・ウォルシュ監督)で映画デビューを果たす。『ファースト・タイム 素敵な恋の始め方』(12・未/ジョナサン・カスダン監督)、『インターンシップ』(13・未/ショーン・レヴィ監督)、『バーニング・オーシャン』(17/ピーター・バーグ監督)に出演。さらに、ベストセラー小説を映画化した『メイズ・ランナー』(14/ウェス・ボール監督)で主演トーマス役に大抜擢、大ヒットシリーズとなり『メイズ・ランナー2砂漠の迷宮』(15)、第3弾『メイズ・ランナー最期の迷宮』(18年6月)の公開を控える。

MICHAEL KEATON

マイケル・キートン

スタン・ハーリー役

1951年、アメリカ・ペンシルベニア生まれ。コメディ番組出演の後、『ラブINニューヨーク』(82/ロン・ハワード監督)で最初に注目され、次に、『ミスター・マム』(83/スタン・ドラゴッティ監督)、『ドリーム・チーム』(89/ハワード・ジーフ監督)といった人気作に主演。1989年には、『偽りのヘブン』(88・未/グレン・ゴードン・キャロン監督)と『ビートルジュース』(88/ティム・バートン監督)の両作品で全米映画批評家協会の最優秀男優賞に輝いた。バートン監督とは、タイトルロールを演じた大ヒット作『バットマン』(89)、『バットマン リターンズ』(92)で再びチームを組んでいる。2015年の米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14/アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)でリーガン役を演じ、批評家や観客の称賛を浴びた。この演技で、ゴールデングローブ賞/インディペンデント・スピリット賞/米国映画批評会議賞の最優秀男優賞を受賞し、キャストとともに全米映画俳優組合(SAG)賞アンサンブル演技賞も受賞した。さらに、米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』(15/トム・マッカーシー監督)にも出演。近年は、マクドナルドの創始者レイ・クロックを演じた『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(16/ジョン・リー・ハンコック監督)、『スパイダーマン:ホームカミング』(17/ジョン・ワッツ監督)などがある。

TAYLOR KITSCH

テイラー・キッチュ

ゴースト役

1981年、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア生まれ。2006年、NBC放送の高評価を受けたスポーツドラマ「Friday Night Lights」(06~11)でティム・リギンズを演じ、ブレイクした。映画では、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09/ギャヴィン・フッド監督)、『バンバン・クラブ-真実の戦場-』(10/スティーヴン・シルヴァー監督)、『ジョン・カーター』(12/アンドリュー・スタントン監督)、『野蛮なやつら/SAVAGES』(12/オリヴァー・ストーン監督)、そして、2012年にはSF超大作『バトルシップ』(ピーター・バーグ監督)に主演。
その後、前述の「FridayNightLights」のクリエイター、ピーター・バーグと再びチームを組んだ、『ローン・サバイバー』(13)に出演し高評価を得た。2014年、TV界に戻り、HBO放送のエミー賞受賞ドラマ「ノーマル・ハート」、HBO放送の「TRUE DETECTIVE/ロサンゼルス」(15)に出演した。

SANAA LATHAN

サナ・レイサン

アイリーン・ケネディ役

1971年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。イエール大学で演劇を学ぶ。主な出演作品は、『ブレイド』(98/スティーヴン・ノリントン監督)、『ベストマン』(99・未/マルコム・D・リー監督)、『最高の贈りもの』(13・未/マルコム・D・リー監督)、『ブラウン・シュガー』(02・未/リック・ファムイーワ監督)、『タイムリミット』(03/カール・フランクリン監督)、『エイリアンVS.プレデター』(04/ポール・W・S・アンダーソン監督)、『Something New』(06・未/サナー・ハムリ監督)、『The Family That Preys』(08/タイラー・ペリー監督)、『コンテイジョン』(11/スティーヴン・ソダーバーグ監督)、『パーフェクト・ガイ』(15/デヴィッド・M・ローゼンタール監督)などがある。近作は、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(16/ジョン・M・チュウ監督)で、マーク・ラファロとペアを組む警部を演じている。

DAVID SUCHET

デヴィッド・スーシェ

スタンスフィールド役

1946年、イギリス・ロンドン生まれ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの準団員であり理事でもある。アガサ・クリスティの「名探偵ポワロ」(89~13)の全74話で演じたエルキュール・ポワロ役で世界中に知られている。2010年に大英帝国勲章を受章した。そのほか、舞台でも活躍しており、ローレンス・オリヴィエ賞などノミネートされている。主な出演作に、『ハリーとヘンダスン一家』(87/ウィリアム・ディア監督)、『ワールド・アパート』(88/クリス・メンゲス監督)、『エグゼクティブ・デシジョン』(96/スチュアート・ベアード監督)、『ダイヤルM』(98/アンドリュー・デイヴィス監督)、『セイブ・ザ・ワールド』(04/アンドリュー・フレミング監督)、『バンク・ジョブ』(08/ロジャー・ドナルドソン監督)など。

STAFF

MICHAEL CUESTA

マイケル・クエスタ

監督

1963年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。TVシリーズ「シックス・フィート・アンダー」(01-05)、「デクスター 警察官は殺人鬼」(06-13)、「ブルーブラッド」(10-)、「エレメンタリー」(12-)など監督する。「HOMELAND」(11-)ではエミー賞ドラマシリーズ監督賞を受賞した。映画では、共同脚本も担当したインディペンデント映画『L.I.E』で監督デビュー。その他に、家庭内のドラマを描いて2007年度インディペンデント・スピリット賞のジョン・カサヴェテス賞にノミネートされた『12 and Holding』(05)、2009年度トライベッカ映画祭でプレミア上映された『Tell-Tale』、さらに『Roadie』(11)、『KilltheMessenger』(14/出演:ジェレミー・レナー)などがある。

VINCE FLYNN

ヴィンス・フリン

原作

1966年、アメリカ・ミネソタ州セントポール生まれ。1984年にセント・トーマス・アカデミーを卒業し、1988年にセント・トーマス大学で経済学の学位を取得し卒業。卒業後は、クラフト・ゼネラル・フーズで会計と販売マーケティングのスペシャリストとして仕事をした。1990年にクラフト社を退社し、米海兵隊で航空候補生のポストを受けたが、幹部候補生の学校に入る1週間前に、海兵隊航空プログラムから、成長期に苦しんだ脳震盪とけいれん性の発作のため、医学的に失格との通知を受け取った。自分のコンディションのために医療放棄を取得しようと試みながら、本を書くことを考え始めた。5年が経ち、60社以上から断りの手紙を受け取ったのち、処女作を自費出版するという思い切った行動に出る。その本はミネアポリス・セントポールで売上一位となり、1週間のうちに、新しいエージェントとサイモン&シュスターの子会社ポケット・ブックスとの2冊の本の契約を結んだ。処女作「Term Limits」は「ニューヨーク・タイムズ」紙のベストセラーリストに載り、フリンの小説はすべてヒットを記録。それ以来、ペーパーバック版もハードカバー版もベストセラー入りし、フリンはリサーチの正確さと、イスラム過激派原理主義とテロリズムの台頭を予知/警告する先見の明で知られるようになった。2007年10月、9冊目のポリティカルサスペンス「ProtectandDefend」が「ニューヨーク・タイムズ」紙のベストセラー、第一位となり、フリンのキャリアにもう一つの金字塔を打ち立てた。その数か月後、CBSフィルムズはフリンが創造したキャラクター、ミッチ・ラップを主人公とするサスペンスアクション映画のフランチャイズ・オプション権を獲得。ミッチ・ラップのサーガの過去を描く作品「American Assassin」と「Kill Shot」がそれぞれ2010年10月と2012年2月に出版され、両作品ともに「ニューヨーク・タイムズ」紙のベストセラーの第一位を獲得した。シリーズ作品には、「American Assassin」「Kill Shot」「Transfer of Power」「The Third Option」「Separation of Power」「Executive Power」「Memorial Day」「Consent to Kill」「Act of Treason」「Extreme Measures」「Pursuit of Honor」「The Last Man」「The Survivor」がある。2013年に前立腺癌のため死去。

※「アメリカン・アサシン」オークラ出版より6月刊行予定

PRODUCTION NOTES

歴代大統領さえも魅了したスパイ小説の
映画化への歩み

ヴィンス・フリンが1999年にスタートさせたスパイ小説“ミッチ・ラップ”シリーズは、その内容の正確性に驚いた実在の諜報機関のメンバーたちからお墨付きをもらい、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュといった歴代大統領や外国の国家元首に至るまで、あらゆる読者の心を掴んだ。全13巻が出版されたこのシリーズは、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに掲載され、1250万部以上の全米売上げを記録。フリンは2013年にガンのため46歳の若さで亡くなった(が)、シリーズを存続させるためにカイル・ミルズが後を継いでいる。

フリンが死去する前に映画化の契約を結んでいたプロデューサー、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラとニック・ウェクスラーは、数あるシリーズの中から2010年の小説「アメリカン・アサシン」を原作に選んだ。これはベテランのCIA工作員である主人公ミッチの起源に迫った物語であり、心に傷を負った孤独な青年がどのようにして、テロリストにとって悪夢のような存在になっていったのかが描かれている。

製作陣は実際の映画化にあたって、TVシリーズ「ジ・アメリカンズ」で知られるスティーヴン・シフを始めとする優れた脚本家チームを起用した。小刻みに変わる世界情勢の最も重要な瞬間を捉えたフリンの作風を反映させるため、ミッチの過去を現代へと移し替えることを決断した。さらに悪役についても、世界中で起こっているテロがどんなものかを反映する“ゴースト”という新しいキャラクターに置き換えている。

そして製作陣は、張りつめたサスペンスを失うことなくドラマ作りにも熟練した監督を探し、TVシリーズ「HOMELAND」のマイケル・クエスタに行き着いた。クエスタ監督は世界的な規模のストーリーであると同時に、個人を駆り立てる恐怖とその結果を掘り下げるために既成概念をことごとく取り払った物語に引きつけられた。その物語の勢いにも魅力を感じたクエスタは、コミックやファンタジーの要素をことごとく排除し、リアルで理屈抜きの躍動感を実現したいと考えた。「世界を股に掛けたスパイの活動と心理的な動き、それがリアルに描かれた物語を気に入った。私はフリンが小説で実践したように、最も強烈なアクション・シーンであっても物語をスタイリッシュにしすぎず、現実に根ざした描き方をしようと思ったんだ」

新たなヒーロー像を体現した
ディラン・オブライエン

本作の主人公ミッチ・ラップは、一触即発の状況を扱うにはまだ未熟で、破壊的な技術を我がものにするために貪欲に学んでいる過程にある。そんなミッチの成長と変化を表現するのにふさわしい俳優として、25歳のディラン・オブライエンが抜擢された。大ヒット・シリーズ『メイズ・ランナー』で迷宮から抜け出す主人公トーマスを演じたオブライエンの中に、勇敢さと自ら進んで考えて行動する自信を感じ取った製作陣は、悲劇に捉われた若者ミッチの姿を見出したのだ。製作のニック・ウェクスラーが語る。「ディランはごく普通の人間の感覚と魅力を持つアメリカ人らしい青年だが、すぐに強くて滑らかなアスリートだとわかる。ミッチは感情的なトラウマをたくさん抱えているが、ディランは心からその中に入り込むことができた。ディランは身体だけでなく心を作るためにも集中して訓練しなくてはならなかったが、彼はすべてを真剣に受け止めていた」

またマイケル・クエスタ監督は、製作陣が滑らかで細身のアクションヒーローを求めていたと語る。「ディランを筋肉もりもりの男にしたくはなかった。私たち全員が、新世紀のアクションヒーローは1980年代のそれとは違っているはずだと考えていた。だからこそバーベルをどれだけ上げられるかよりも、スピードと強烈さと敏捷性を身に着けたディランの身体を気に入ったんだ」オブライエンは人間の心理と猛烈な訓練、そして初めての危険な任務を混ぜ合わせた現代のスパイ活動の中に観客を連れていく本作のアイデアを気に入った。「この世には多くのスパイ映画がありますが、彼らがベテランになる前にどうしてスパイになったのかを描いた作品は滅多にありません。20代の青年が凄まじい悲劇を経験し、自分を変える新しい道を発見していく。それを目撃するのはとても面白いと思います」

もうひとつ重要なのは、アメリカ合衆国のスパイを訓練する秘密のキャンプを運営するスタン・ハーリーのキャスティングだった。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『スパイダーマン:ホームカミング』などで幅広い役柄をこなしてきたキートンは多才な俳優だが、ハーリーのような筋金入りの頑固者はまだ演じたことがなかった。

ハーリーの百戦錬磨の人物像を掘り下げるには、精神面と肉体面のアプローチが必要だった。キートンはキャラクターのリサーチを開始し、クエスタ監督と長い時間をかけて話し合い、元CIAの顧問たちとの作業を行った。「まず、ハーリーはCIAの外ではどんな人間なのか、ひとりの人間として彼を動かしているものは何かと、自分に問いかけてみた」とキートンは語る。「ハーリーはとても賢いが、付き合いにくい男だ。自分の仕事では間違いがあってはならないと信じている。しかし元教え子の“ゴースト”との間で重大なミスを犯した彼は、その現実に直面しなくてはならなくなるんだ」

俳優たちをスゴ腕のスパイに変貌させた
ブートキャンプ

ディラン・オブライエン、マイケル・キートン、そしてゴースト役のテイラー・キッチュらの主要キャストは、撮影前の準備段階において数ヵ月に及ぶ集中訓練に身を投じた。彼らは格闘技から諜報活動の専門用語、高速運転の仕方まで、あらゆる肉体的かつ精神的なディテールについて、元軍人や元諜報員のグループと緊密に作業した。

オブライエンはハリウッド随一のファイト・トレーナーでありアクション・コーディネーターでもあるロジャー・ユアンと、一対一の作業に取り組んだ。ユアンはジャッキー・チェン、チョウ・ユンファのような有名アクション・スターと共演し、『007 スカイフォール』でダニエル・クレイグを鍛えた人物である。トレーニングの目的は、混合格闘技スタイルの組み技から、武術の飛び技や素手であらゆる種類の武器を扱うことまで、オブライエンの準備を整えることだった。

ユアンの訓練は、軍隊と諜報機関の顧問として参加したジュースト・ヤンセンによってさらに深いものとなった。ヤンセンは本作の戦術と武器訓練を統括した。ヤンセンはオブライエンについてこう語る。「ディランは素晴らしいアスリートで、特に抜きん出ているのは学び取る速さだ。ディランに一度か二度何かを見せると、彼はそれ以上の練習をせずに何度も繰り返して行うことができる。稀有な才能だね」

一方、スタントコーディネーターのバスター・リーヴスは多くのバトル・シーンの振付を手がけ、ユアンとともにオブライエンの訓練に加わった。リーヴスは元空手チャンピオンで、今は引っ張りだこのスタントパフォーマー、トレーナー、振付師であり、本作のキャストを自らのブートキャンプで鍛え上げた。「まず健康体操とヨガ、ウェイト・トレーニングと武術を組み合わせた重要な訓練から始めた。そして毎日2時間、彼ら全員をジムに集め、柔術、ボクシング、キックボクシング、リフティング、武器訓練を行ったんだ」とリーヴスは説明する。

壮大なスケールとリアリティを
追求した撮影の舞台裏

「“ミッチ・ラップ”シリーズでとても大切なことのひとつは、孤立する国はどこにもないということ。テロの脅威は地球規模で広がっている。そうした世界の現状を反映させるには、多国籍なロケーションが必要だと考えた」。そう語る製作のロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは、最高のクリエイティブ・チームを集め、アメリカ、イギリス、イタリア、マルタ島、タイでの撮影を敢行した。

美術を担当したアンドリュー・ロウズは“永遠の都”ローマの素晴らしい環境を使えるチャンスに胸を躍らせた。しかし彼は絵葉書のようなイメージのロケ地ではなく、よりアンダーグラウンド的なローマを探し求めた。「ローマは本作にとって、まさにキャラクターのひとりだ」とロウズは指摘する。「でもその美しさ同様、人々が普段目にすることのないローマを使いたいと思った。そこで私たちはコルヴィアーレの団地を使い、クライマックスのいくつかのシーンを撮影した」。1970年代、ローマ郊外に建てられたコルヴィアーレは、ヨーロッパで最も長く巨大な長方形の集合住宅だ。また、ロウズはスタン・ハーレーの秘密キャンプの施設のために、イギリス・ギルフォードの森で見つけたロッジを使用した。

さらにロウズが直面した最も珍しい仕事は、持ち運び可能な核爆弾の正確なレプリカを作ることだった。正しく作成するため、ロウズは原子物理学者とともに作業した。ロウズが説明する。「現代の核爆弾がどれほど小さくて軽いのか、その恐ろしい現実にスポットライトを当てる必要があった。そして私たちは、その爆弾の構成部品がどこから来ているのかという点から、爆弾を軽くするために炭素繊維を用いていることまで、あらゆることを検証していった」

70キロの持ち運び可能な核爆弾は、長崎に落とされた爆弾の30倍の威力を秘めている。それが米軍艦隊のすぐそばで爆発するという想像もつかない状況を映像化することに挑んだ視覚効果スーパーバイザーのポール・ノリスは、次のように語る。「私たちは多くのことを考慮する必要があった。爆弾によって作られる真空状態、かく乱、衝撃波。ステージのセットに作った航空母艦でコンピュータのためのブルースクリーンを使い、あらゆるアクション・シーンを撮影した。そうすれば外で起こっている凄まじいヴィジュアルを、後から付け加えることができるから。それから海の中の巨大な火の玉や水の穴を用いた、水中の映像も作った。それはクレーターと渦を混ぜ合わせたような映像なんだ」

こうした壮大かつ困難なヴィジュアル創造に取り組んだマイケル・クエスタ監督は、そのプロセスを楽しんだ。「これらの巨大で複雑なアクション映画を計画し、それがスクリーン上で完全に実現されていくのを見るのは、とてもエキサイティングな経験だった。スケールの大きさはもちろんのこと、本当にリアルなこの映画を通して、観客もミッチと一緒にいるような感覚に浸れると思う」